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「あらら、組み立てたそばからそう来るん?」

「もう夜やのに無理して組み立てたの、このためやないんですか?」

「さあ?どうやろな」

 マットレスに真新しいシーツを取り付けるや否やベッドに乗り上げキスをした白石を、種ヶ島がからかって笑った。夕食も済ませた後に届いたベッドフレームとマットレス。相談もなく、当然のように二人交互にシャワーを浴びつつ組み上げたのだというのに、その気がなかったなんて言うなら嘘だ。白石は小さく笑い、仰向けに寝そべった種ヶ島に再び口づけた。種ヶ島の唇に触れるよう舌をちらつかせれば、応えた種ヶ島のそれにねっとりと絡め取られる。気付けば大きな手に頭を固定され、白石の舌が溶けてなくなるまで味わおうとするかのような熱い舌に、あっという間に主導権を奪われてしまった。

「……っん……、ふ……」

 種ヶ島の巧みなキスに、結局いつもいっぱいいっぱいにされてしまうのも変わらないままだ。押し流されているのにこみ上げる倒錯した喜びも、白石の息が続かなくなる頃に種ヶ島が必ず解放してくれるのも。

「お前なぁ、俺がどんな思いで我慢しとったと思ってるん」

 息を切らした白石を熱っぽく見上げ、種ヶ島が言った。

「だからですわ。……ねえ修二さん、我慢だけやないですよね?なんで手出せへんかったんです?」

 記憶が戻っても、それだけは分からなかった。怖がらなければ抱けるのかと迫ったとき、微かに揺らいだ目を忘れてはいない。尋ねると、種ヶ島は少し気まずそうに目を泳がせた。

「……言わんとあかん?」

「知りたいです」

 種ヶ島は、目を逸らしてちょっと渋ったが、やがて小さなため息と共に向き直った。

「半分は、ほんまにお前の心が心配やったから」

「あとの半分は?」

「……あれから涙腺壊れとって、抜く時ですらうっかりお前のこと思い出すと悲しなって泣いてもうて」

「……」

「ちゃんとできる自信なかってん」

「……修二さん」

 小さな声でぼそぼそと告白した種ヶ島を、白石はたまらなくなって抱きしめた。「ごめんなさい」とまた口を突いて出そうになったが、彼を悲しませるだけだと思い直して唇を結ぶ。それを白石の罪とすることを、種ヶ島は決して喜ばない。だから、逞しい体の奥にある何度も傷ついた心を守るように、ただ腕を回した。種ヶ島の手は愛おしげに白石を抱き返す。

 白石は顔を上げ、種ヶ島の瞳の奥深くを覗き込んで問いかける。

「今は……?悲しくありませんか」

「もう悲しないよ。帰って来てくれたからな」

「途中で泣いてもええですよ」

「泣かへんて。もう泣く理由ないやん」

「……ほな、せえへん理由も無うなったってことでしょ」

 深いキスひとつで硬くなり始めているものを、種ヶ島の太腿に押し付けて情欲を知らせる。彼から学んだ、言葉よりよっぽど強く本能を揺さぶる方法のひとつ。目の前の紫色の瞳が妖しく深い喜色を孕んで眇められるのを見て、思わず擦りつけるように腰が動く。

「……蔵ノ介」

「俺だって、一年三か月ぶりなんですよ。後ろも準備できてます」

「この前まで怖いとか言うてたのになぁ。俺のことと一緒にそれも思い出したんや」

「あぅ……っ」

 今やはっきりと熱を帯びた目が意地悪く笑い、緩く兆したペニスを膝頭でゆるゆると撫でられる。腕はいつの間にか腰に回り、白石の逃げ道を塞いでいる。白石は執拗な刺激に震え、種ヶ島の上にくたりと上半身を伏せながらも、乱れる息をそのままに種ヶ島の耳元で答えてやった。

「当たり前や、修二さんのためにしかせえへんねんから」

 その刹那乱れた種ヶ島の息は、少しばかり悔しそうに白石の耳に届いた。種ヶ島は一瞬でぐるりと反転し白石を組み敷くと、堪り兼ねたように口づけた。戸惑いも躊躇いもすっかりなくした唇と舌が白石を求めて激しく動く。次いで、さっきまで膝頭に虐められていたペニスが再び固いもので擦られた。白石は思わず息を詰めたが、感じる熱さにすぐにその正体を理解して腰を揺らす。交わる唇の端から漏れる互いの乱れた呼吸が興奮を煽り、腰遣いは快感を追って次第に激しさを増していく。やがて種ヶ島が、すっかり熱に浮かされた瞳を隠しもせずに囁いた。

「抱くで」

 鈍く輝く瞳を恍惚と見つめ、白石は切ないよろこびに目を細めて頷いた。種ヶ島が白石の髪を人ひと撫でして離れる。もはや場違いな明るさで白く照っていた部屋の照明を無言で消しに行く背中を、白石はぼんやりと見た。やがてパチ、という音と共に急に部屋が真っ暗になる。暗さに慣れず一瞬黒一色に塗り潰された視界の中、足音が近づき、欲情に光る紫色の瞳が急に目の前に現れたかと思うと、白石の体は性急に、けれど限りなく優しく押し倒された。

 

  ◆

 

「えらい念入りにやったなぁ」

「ん……っ、ふ……そうやないと、心配して挿れてくれへんでしょ……っ」

 一糸纏わぬ姿で後孔に三本の指を咥え、白石は息が乱れるのを堪えて言い返した。種ヶ島の手によってたっぷり塗り付けられた潤滑油がぐちゅ、と水音を立て、電気の消えた部屋の空気がますます淫らな色を濃くしていく。

「やらしいこと。挿れて欲しゅうて一生懸命解したんや」

「そんなん、っあ、……っう、……あぁっ」

 種ヶ島の目がまた意地悪に微笑んだ次の瞬間、白石は身を捩って甘く喘いだ。後孔に急に強い性感が走り、種ヶ島の長い指が前立腺を擦っているのだと遅れて理解する。

「……っ、んっ……う、ほんま、いじわる……あっ、あ、あぁ、あかん、待って、いくっ、いく、あかん」

 すると、急に種ヶ島の触れるところが燃えるように熱くなって、まだ先だと思われた最初の頂が唐突に眼前に迫った。あまりに急速に高まっていく快感に、白石は戸惑って声を上げた。

「えらい早いな。イってええよ」

「や、いや、指やのうて、修二さんのでイきたい……っ」

 理解し難い悦楽をもたらし続ける種ヶ島の腕を掴んで訴えると、「そんなん言われたらなぁ」と困ったような笑みと共に指が引き抜かれる。その僅かな刺激にも腰が跳ねるほどに高まった体がはぁはぁと激しく呼吸するのを、既にどこかへ飛ばされつつある理性が他人事のように見ている。種ヶ島に触れられていたところが、まだ火傷をしたように熱く、痺れを催し続けている。いくらなんでも、こんなことあっただろうか。白石は首を傾げた。

 半身を起こした視線の先で、種ヶ島が唯一まだ身につけていたボクサーパンツを脱ぎ捨てた。今まで窮屈であったことが想像に難くない大きく勃ち上がったペニスがぶるんと露になるのを見ただけで、白石は危うく射精してしまいそうになった。

 自分にも同じものがついているのだというのに、種ヶ島のペニスは、白石にとって不思議なほどに特別で、うつくしい。どこを切り取っても麗しい種ヶ島は、愛欲でさえもどうしようもないほどに魅惑的だ――それが真理であるのか、己が種ヶ島の虜であるためなのか、もはや白石に確かめる術はないのだが。その欲を凝縮し象徴するような屹立が、白石に向かって太く長く勃ち上がっている様は、長い間目にしていなかったせいか急速に白石の下腹を重くし、脳をどろどろと溶かしていく。

 白石は欲望のまま、するりとそのかたちを確かめるように手を這わせた。すると、下生えの上に続くきれいに割れた腹筋がびくりと収縮し、種ヶ島が微かに呻いて息を詰めた。白石は驚いて手を引っこめる。

「、すみません」

 爪でも当ててしまったろうか、そんな感触はなかったが、と怪訝に思いつつ小さく謝ると、詰めた息を熱く吐き出した種ヶ島もよく分からないというように言った。

「いや……、なんやいまの。蔵ノ介、手に何かしとる?」

白石がきょとんと首を振ると、種ヶ島はごくりと唾を飲み込み、「……もっかい触って」と低く囁いた。言われたとおり、再びそれをそっと手の中に入れると、目を閉じた種ヶ島から悩ましげな息が漏れる。

「……気持ちええんですか……?」

きゅっと寄せられた眉根にどきどきしながら尋ねると、種ヶ島はふっと瞼を開き、快楽に揺れる瞳で答えた。

「なんや体おかしいわ……ずっと、恋しかったからやろか」

「……俺もです。触られたとこ、おかしいくらい気持ちええ」

 視線を絡め抱き合うと、ただ触れ合っただけの肌からも淡い快感がこぼれて、白石はぶるりと身震いした。これで繋がったらどうなってしまうのだろう。恐怖にも似た興奮が二人の間に膨れ上がるのを感じ、白石は種ヶ島へとそっと脚を開いた。

 潤滑油を纏った種ヶ島のペニスを迎え入れようと、長く閉ざされていた後孔が拡がる感覚に、震える息を吐いて目を閉じる。やがて我がもの顔で、しかしひたすらに優しく押し入ってくる懐かしい質量に、白石は顎を反らせて涙を流した。

「あ……、あぁ……っ」

 胸が切ない悲鳴を上げる。何かが決定的に満たされていく。三日前まで忘れ果てていたこの愛しい圧迫感を、からだか、こころか、脳以外のどこかは渇望していたのではないかと白石は思った。見上げれば、瞳を潤ませた種ヶ島が見下ろしていて、あたたかい指が涙を拭った。

 しかしその進行は、二人の接点から火花を散らす例の不思議な快楽によって妨げられた。種ヶ島が少し押し込むたび、孔が切ない快感を募らせて激しくペニスに縋りつく。また少し進めば、きつく締まった粘膜が強く擦られ、体ががくがくと震えた。

「あ、あ、だめ、あぁあっ……、」

「っ、蔵ノ介……」

 三分の二ほど収めたところで、白石は早くも極まって激しく息を乱し、種ヶ島はきつく眉を寄せて動きを止めた。

「あかん、もうイきそ……」

「……っ、俺もです」

 遂に戻り来た最上のつながりに、体が激しく歓喜している。包み入れた粘膜から沸き上がる快感を抑えられない。

 同じ悦楽に熱く蕩けた二つの視線が絡んだ。種ヶ島は優しく額を合わてひとつキスを落とした後、狙い澄ましてそこを押し上げる。

「あぁ……っ!」

 待ちわびた刺激に強い快感が弾け、上擦った声が飛び出る。乱れ打つようにがつがつと続けて前立腺を突かれ、たった数回擦られただけで暴発するような絶頂が訪れた。

「ぅ……、あっ、ああぁっ」

「はぁ……っ、く……」

 身構える間もなく体が痙攣し、白石は腹の底でぶわりと広がる快感に押し出されるように射精した。びゅう、びゅ、と白濁が飛ぶのに合わせ、突き出すように腰が激しく震える。

 種ヶ島からも色っぽい呻きが漏れ、収縮した後孔の中でペニスがどくどくと脈打つのを、白石は恍惚と感じ取った。種ヶ島がこんなに早く達するのは初めてのことで、それほどまでに白石を求め、強く感じてくれたのだと思うと、熱い涙がこぼれていく。

「は……っ、あはは……、情けなぁ……」

掠れた声でくつくつと肩を揺らしながら、種ヶ島が脱力して白石に覆い被さった。

「……、……ふ、はは、あはは……っ」

 ふわふわとした余韻の上を揺蕩いながら、白石はじっとりと汗をかいた逞しい背中を抱いて泣き笑った。全身をじんわりと覆う絶頂の名残も、熱くなった種ヶ島の体の心地よい重みも、何もかもが白石にとって正しかった。長い別離が増幅させた快感を爆ぜさせたふたつの体が、ぴたりと合わさってくすくすと揺れている。白石の目尻からもう一筋涙が流れた。

「あー、あかん……めっちゃよかった」

「気持ちよかった、ですねぇ、ふふ……」

 幸せそうに緩んだ紫の瞳に微笑み返すと、たっぷりとした優しいキスが落とされた。唇で抱き合うような穏やかなキスが、急激な絶頂の名残に泡立った肌を少しだけ落ち着かせていく。

 小さな水音を立てて唇が離れると、種ヶ島はじっと白石の瞳を見つめながら腰を引いた。

「ぁ……っ」

 ずちゅ……という淫らな音と共に後孔からペニスが引き抜かれ、過ぎ去った絶頂の欠片がぞくりと蘇って思わず身を竦める。孔にはもう何も入ってはいないのに、ひくん、とひとつ腰が揺れた。ぎゅっと瞑った目を再び開くと、快感に歪む白石の顔を舐めるように見届けたその目にまだ欲望の炎が燃えているのを認めた。

 白石をさらに欲しがるこの瞳の強烈な引力に、抗えたことはない。吸い込まれるまま見つめ、白石は自らの後孔もまた、眠らされていた欲望が目覚めてしまったかのようにしきりに切ながっているのを自覚した。空っぽの孔が切なく疼き、腰が揺れ、白石は、今自分もこの人と同じ目をしているのだろうとぼんやりと思った。その色を見て取ったか、種ヶ島は直前のキスとは打って変わって深く白石へと口づける。

「んん……っ」

舌を絡め取られ根元を吸われると、それだけで腰が明確に跳ね、後孔が何もない空間を掴むように収縮した。たまらず膝を擦り合わせて声を上げると、種ヶ島は唇を解放し、

「もう一回しよな」

と囁いた。頷き、白石はゴムを付け替えられる種ヶ島のそれがもうすっかり元のように勃ち上がっているのを見た。白濁の散った腹に再び頭をつけようと伸び上がっている白石のペニスも同じであった。 一年三ヶ月もの欠落はそう簡単には埋まらないとでも言うかのよう、体の底からとめどなく湧いてくる欲望に、落ち着きかけていた息がまた浅くなっていく。

「修二さん」

 呼んで腕を伸ばすと、種ヶ島が微笑んで長い腕に包み込んでくれた。種ヶ島の呼吸も白石と同じように興奮していて、二人の情欲が共鳴し合い膨らんでいくような気がする。種ヶ島は白石の背を抱いたままシーツに横たえると、指先でそっと白石の前髪を払いながら脚を開かせた。逸れることなく注がれ続ける視線に囚われながら、白石は種ヶ島を迎え入れる。

「ふ……、あぁ……」

 再び侵入するものの体積に抑えきれない声を漏らし、快感に瞳を潤ませて恍惚と瞼を緩めれば、白石を釘付けにしたままの紫の瞳が引力を増すように深まり、包み入れたペニスが膨らむ。快感に染まる白石の姿に欲情していることを隠さない種ヶ島の仕草は、変わらず白石を淫らに溶かしていく。

「……あっ……あ、修二さ……っ」

「ん……もうちょい待つ……?」

 白石は、思わず種ヶ島の名前を呼んだ。さっき挿入されていた深さを越え、種ヶ島のペニスが最奥へと迫っていた。そこがもたらす強烈な快感が想起されたのだった。怖じ気が先に立って種ヶ島を呼び止めたが、寸前で止められた進行に、今度はその快感を知る体が強烈に焦れ始める。白石は少しだけ息を整え、はっきりと頭を振った。種ヶ島は白石の目尻に溜まった生理的な涙を掬い、キスを落とす。

「ええの……?……俺もはよ全部感じたい、お前の中」

 譫言のようにどろりと言うと、種ヶ島が少し体を起こし、深く絡み合っていた視線が切れる。大きな手のひらが白石の腰をがっちりと掴み、あ、と思った瞬間、種ヶ島のペニスの残る数センチがずんと後孔に埋め込まれた。

「ああ……!」

 閉ざされていた最奥がこじ開けられ、亀頭が重く精嚢を潰した。長い間それを受け入れてこなかった体が、強烈すぎる快感に曝されて撓む。

「あ……、ぁっ、あぁ……」

 種ヶ島のペニスは、ただ全長を白石の後孔に収めきって静止しているだけだ。それでも、ちょうど押し上げられている精嚢が僅かな後孔の収縮からさえも快感を生み出し、白石の体でひくんひくんと小さな痙攣が、もどかしく浅い絶頂が始まる。

 白石は、詰まる息に言葉も紡げなくなって種ヶ島を見た。すぐにでも動き出したくてたまらないくせに、大丈夫か、少しこのままでいような、なんて言い出しそうな優しい瞳にぶつかったから、引き締まった胴に脚を絡め、引き寄せるように力を込めてやる。そうすれば、種ヶ島には伝わった。三年の間、本当に何度肌を合わせたか分からない。種ヶ島はよく知っているのだ。白石がこの場所での絶頂を殊更気に入っていることを。小麦色の腕が淀みなく体を抱き込んでくれたことに安堵して、白石は後孔をいっぱいに埋めて脈打つそれに全てを委ねた。種ヶ島が白石の精嚢を練り潰すように腰を動かし始め、淫らに焦れる体に優しいとどめを刺す。

「ひっ……ぁ、あぁっ、う、ああぁあ、ああぁ――っ」

 既にひたひたと寄せていた絶頂が、一息に深くなって全身の神経を犯した。口からは抑えようもない嬌声が溢れ、全身が意志を離れてがくがくと激しく痙攣する。二人の間で震える白石のペニスからはこぽりこぽりと不規則に精液が零れ、種ヶ島の剛直は絡み付く最奥を容赦なくこじ開け、連続でフラッシュが焚かれるような快感を数珠繋ぎに注ぐ。

「うぅ、――っ、ああぁあ、うあぁっ――……」

 種ヶ島だけが与えることのできる、熱い胸の中で延々とイかされ続けるこの深い絶頂を、白石は愛していた。爆発する本能に支配され、何一つ思いどおりに動かなくなる体も、頭も、少しも怖くはない。必ず抱き止めてくれる胸がそこにあることを感じ、種ヶ島のもたらす快楽に全てを明け渡す刹那の時間は、いつも白石に最上の安楽をもたらした。種ヶ島が熱に浮かされた声で「蔵ノ介」と呼ぶのが聞こえ、ごうごうと燃える快楽の炎に薪をくべる。

「あぁあ、――っ、あっ……あぁっ、……う、ぁ―……、っ」

 永遠に続くかに思われた絶頂の大波は、やがて少しずつ引いていく。気づけば種ヶ島の腰はすっかり止まっていた。精嚢でイき続け、まだ頂から降りきれず名残に震える体はただ優しく抱き締められて、大きな手のひらがあやすように背をさすっている。

 引いていく波と入れ替わるように、白石の胸に痛いほどの喜びが溢れ、同時に、気づくことさえ許されなかったこれまでの寂しさが浮き彫りになって、白石は子どものように泣き出した。

「蔵ノ介……?きつかった?」

 心配そうに覗き込んだ種ヶ島に、急いで首を横に振る。

「嬉しいんです」

 そう伝えると、種ヶ島が切なそうに目を細めて白石の髪を撫でた。まだ果てていない、固く太いままのペニスが、後孔の中で一度だけ揺さぶられる。

「ん……っ」

「俺も嬉しい……な、動いてええ……?」

「あ……、ん、あぁっ」

 興奮しきった声で問いかけながら、珍しく我慢が効かないらしい腰が動き、長い絶頂に苛まれた粘膜を擦った。みたび始まろうとする淫靡で幸福な快楽の時間に、がくがくと白石は腰を震わせ、ぼろぼろと涙が止まらないまま何度も頷いた。長い間、白石も知らない間に飢えさせられた体は、際限なく種ヶ島を欲しがっていた。

 久方ぶりの深い絶頂に浸かった体は、すっかり弛緩して力が入らない。白石の両脚は種ヶ島にされるがまま深く畳まれ、腰を力強く掴まれて抽挿が始まった。

「ん……っ、あ、あ、あぁっ……、ああ……っ」

 種ヶ島の動きはすぐに激しさを増し、ぎりぎりまで引き抜き、全長を一気に埋める大きな律動が前立腺を擦り、奥を突くたびに精嚢を抉った。力の抜けきった体では一切の快感から逃れることはできず、種ヶ島がぶつける全てを受け止めさせられる内壁で幾度も達しながら、白石は涙を流して甘く鳴き続けた。ぱん、ぱん、と肌のぶつかる音が響く。

「あ、あぁ、あっ、きもちええ……、いく、あぁっ、ああ……いってる……、しゅうじさん」

「は……、ん……気持ちええな……」

 今はもうなくなってしまったあの種ヶ島の部屋で始めて繋がったとき、この体はほとんど快感を得られなかった。今こうして一緒に昇っていけるのは、想い合い、積み重ねて来たいくつもの消えない夜があったからだ。二人でもっともっとよくなりたい。かつてのようにその本能だけが声高に叫び、邪魔をする理性を押し流す。何度もひとつになった二人の夜が再生されていく。

「あぁあ……、あぁ――……ああぁ……」

 白石は、極まり続ける体がとうとう輪郭を失う感覚に陥った。後孔が熱く溶けた快感のかたまりになって、引き抜かれているのか突き入れられているのかも分からなくなる。高熱を帯びた孔が、帯のように切れ目のない快感を身体に注ぎ込んでいる。油の缶を逆さにしたように途切れず、一筋とぷとぷと注がれ続けて、抗いようもなくあっという間に水位が淵に迫っていく。もう、溢れる。

 視界が白んでいく。眼前に迫った一際高い頂に意識が飛ぶことを直感し、白石は急に、自分が眠ったあとに残される種ヶ島のことが心配になった。また一人きりで泣いたりしないだろうか。

 修二さん、修二さん。大丈夫、俺もう忘れません。眠っても、起きたらちゃんと修二さんのこと覚えてます。もう二度と一人にしません。だから大丈夫。

 張り裂けそうなほどいっぱいに胸を埋めたそんな思いが、押し出される嬌声の狭間でどこまで言葉になったか分からない。がくがくと揺れる視界の中で、紫色の虹彩が滲み、ぽたり、頬に雫が落ちてきた。泣かないって言ったくせに。白石は小さく笑った。

 その瞬間、孔から体中へと注がれた大量の快感が決壊し、溢れた。

「あ、ひっ……んあぁっ、ぁああ――――」

 めちゃくちゃに痙攣する体が、繋がったところから熱く真っ白に霧散する。種ヶ島が声を殺すように唸り、きつく反った白石の背を力強く抱きしめた。目の前が霞んでいく中、ありったけの力を集めて上げた腕は、その背を抱き返すことができただろうか。中で激しく震えるものの存在を何より愛しく感じ、全てを取り戻した満足感に溺れるようにして、白石の意識は快楽の底へと飲まれていった。

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