どの花が好きか
- ふく
- 2024年11月1日
- 読了時間: 2分
家から15分ほど歩いたところに、不思議な花屋がある。
店先には何もなく、軒下に大量の花が並ぶよくある花屋とはかけ離れた店構え。蔦の這った白い壁に銅色の小さな看板がさがっていて、木のドアから中を覗いても、がらんとした店内にまばらに置かれた十個ほどの大きな花瓶に花や枝が数本ずつ活けてあるだけ。その花も、見たことのない変わった花ばかりだった。
余白のある空間は店というよりは画廊や展示室に近い印象で、中にいた女性に「ここは何ですか?」と尋ねて初めて、花屋だと分かった。
店主の答えを聞くまで花屋だと分からなかったのには、もう一つ理由がある。
この花屋には、値札がない。
初めて訪れた日、その店が私に体験させた「値段なしで品を選ぶ」時間は、とても印象的だった。値段が目に入らないから、ただ純粋に「どの花に一番惹かれるか」だけで買う花を選ぶことができた。
昔から自宅用に花を買うことはあったけれど、花の姿と一緒に常に値札が目に入る普通の花屋では、「どの花に一番惹かれるか」よりも、「どの花が一番コスパがいいか」みたいなつまらない基準を優先して花を選んでいたことに、そうして気がついた。花の値段なんて、考えてみればどれもそんなには変わらないのに。
どの花が好きか?それだけに耳を澄ます時をくれる空間がとても優しくて、豊かだった。
そして私がある花に目をつけたのを認めると、店主はさりげなく値段を教えてくれた。
気温もぐっと下がって、明日からは秋の連休。
久しぶりに花を買いに行って、私の好きな花と家で過ごしたい。
