澄んだ朝日に舞う雪、涙を堪える白い額
- ふく
- 2024年12月2日
- 読了時間: 3分
更新日:2024年12月4日
久しぶりに「十年後の今日」の感想をいただいて、気が向いたので自分でも久しぶりに読んでみた。
元はといえば、予定になかったサークル参加を急遽決めてしまい、せっかくだから新刊も出したくて、せめて一本は長めのものを書きおろそうと一か月ほどで書き上げた急ごしらえの中編。
(私は「短編はWebでも読めるが、長編は紙の方が読みやすいし味わいやすい」と感じる人間なので、本を出すとなると「せっかく紙で読めるんだから、Webでもいい短編ではなく長い話を書こう」と考える習性がある。Webという媒体もあるのにあえて紙の本を選ぶ私なりの意義や言い訳でもある。)
そんなことで推敲もしきれず、今思えば奇跡以外の何ものでもなかった「リプレイ」の大きすぎる手応えがまだ手に残っていたこともあって、刊行当時は納得がいかず申し訳なく思いながら頒布していたっけ。
改めて読んだら、そんな執筆当時のことをいい具合に忘れてしまったからか、きれいで切なくてあからさまに私っぽい作品だな、と悪からず思えるようになっていて、嬉しかった。
ご感想の中で、「ハッピーエンドと分かっていても…」というくだりがあって、ふふ、となった。執筆しながら、オチがめちゃくちゃ早く見える話だなぁ、と思っていたことを思い出して。
本作は読者目線、8章あるうちの2章目の冒頭で「種ヶ島はだいぶ前に別れたきりの白石を待っている」ということが分かり、「最後に白石が来る話なのだろう」という予想がつく。オチが見え見えだからこそ、白石が来るまでの種ヶ島の姿や、あの日に至る背景が明らかになる過程が読み応えの肝になる……という理解と気合いだけはあったっけなぁ。実を結んだかはさて置いて。
オチを分かって読む本作を面白かったと思ってくださった旨のお言葉をいただいて、時間がなかったなりにそのあたり少しはうまくいったのかなと、当時納得いかずにいた私も少し救われた。
本作は、老画家が見たラストシーンの情景がともかく頭にあって、そこへ向かって書いていったところがある。美術館の入り口からロビーを満たすほどの強い西日が射し込んで雪がきらきらしてどうのこうのなんて、現実にはまずあるわけないファンタジーに片足つっこんだ情景だけれど、私は創作物の中だからこそ成立するそういう風景が好き。
「十年前の口約束のため」なんて現実離れしていて、少なくとも賢く慎重な彼らの行動理由としてはふさわしくなく思えるけど、半幻想の風景と、美術館という非日常の世界、老画家という少し浮世離れした人物の視点の中でなら釣り合いがとれるかな、なんて思った作品だった。
