美学
- ふく
- 1月27日
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更新日:1月27日
白石くんは種ヶ島さんが育てたことになっているし、種ヶ島さんの閃きテニスが一つのきっかけだったのは確かだけど、種ヶ島のテニスのエッセンスを継承しているわけではなく、むしろ結局は聖書テニスの正統進化的な発展のしかたに帰結したのが面白いし納得感がある部分だと思う。
白石と種ヶ島は類似点こそあれど根っこが違うのが表れてる気がして。
ゼウス様の特殊能力もあってどのエレメントでもゼウス様を上回れない種ヶ島さんが閃き一つでゼウス様を崩して勝った、という事実は、地の能力的に飛び抜けたものがなくて行き詰まりを感じていた白石くんに「俺も発想次第で勝負できるかも」という可能性を感じさせてる。けど、実際すぐに種ヶ島さんのようにできるわけなくて、種ヶ島さんもフランス戦前夜アドバイスとあわせて「お前は俺のようにはできないよ」とやんわり伝えたように感じる。
あの夜白石くんは自分の能力の一つの使い方を閃いただけであって、試合の状況に応じて相手が思いも寄らない発想や駆け引きを繰り出しまくる種ヶ島さんのテニスと星の聖書は結局まったく違う。
白石くんには、使えるものは砂一粒も残さず這ってかき集めて使う意地汚さにも似た逞しさは感じなくて、種ヶ島さんよりはまだどこか品位や美しさを保とうとするところを感じる。くだらないプライドに拘って手段を選り好みしてるわけではなくて、白石くんは自然体でいるとそうなってしまう人なんだと思う。二年後もそこは変わってないような佇まい。
そういうの分かっていて、種ヶ島さんはあの夜「(お前に俺と同じやり方は無理だから、お前なりの方法で)まずとにかく一つ突破口を作るという考え方をしてみなさい」と導いたのかな。
内面の話、白石くんは種ヶ島さんと比較して良くも悪くも都会的な印象を受ける。種ヶ島さんの方が足りないことに慣れているというか、対処法をたくさん知ってる感じ。
例えば火を起こさなきゃいけないのにライターもマッチもないとき、白石くんはそこで火を起こすこと自体を正しく断念したりマッチを手に入れることに思考を切り替えるかもしれないけど、種ヶ島さんはそこらに転がってる木片や石を使って火起こせへんかなと大真面目に考えてみたり、火が起こせなかったら真っ暗闇を楽しむ方法を編み出したりする逞しさがある気がする。
しかし、何でも使う、隅々まで一番役立つように利用する、どうなったとしてもどうせ本来無一物!思いつく限りやったれー!という種ヶ島さんの発想のえげつなさとそれを実行する常識はずれの度胸はどこから来たんだろうな、ほんとに。
白石くんだけじゃなく、他の選手もほとんど全員が無意識に自分の美学を逸脱しない範囲でテニスをしてる気配があるから(とても若者らしいと思う)、種ヶ島さんはその点で他と違う次元に立っていて、そこが自分の最大の強みと自覚してもいそう。
種ヶ島さんにも美学はあるけど、それは負けないことだけ。拘る美学が誰よりシンプルな分、彼は他の選手より自由で選択肢が多いんだろうな。